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サラバ! こんな活字生命体を生み出す西加奈子もまたモンスター

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サラバ! 上

サラバ! 上

 

 

揺さぶられた。

動揺した。
 
そんな、ちょっとした地震に見舞われたかのような思いが胸中に渦巻く。
 
この本を一言でいうなれば、モンスター。作中の言葉を借りれば化け物。

そう表しても、この本を読了した方であれば
なんら気をおくれしない表現であると思う。
 
本の領分を越えている。
そう思わせる。
 
時に無慈悲で獰猛で野性的できびしく、気まぐれに優しい。

いや、優しいところなどあっただろうか。
 
あったとしても、それは常に厳しさや懺悔を携えていた気がする。

まるで、生き物のようであった。
 
この活字生命体にとって、私の心をぐらつかせるのは非常に容易であったと思う。
 
まるで、おわりかけのジェンガはそうするまでもなく、
勝手に崩壊するように、である。

また、何人もの読者をそのようにしてきたのだと思う。
 
そしてまた、そんな活字生命体を生み出す作者もまたモンスターである。
 
散々脅すようなことを書いたが、皆さんにも是非読んでみてほしい。
 
それは次の2つの理由からである。
 
1、揺さぶられてほしい。

まずこれに尽きる。この化け物じみた本に食べられてほしい。
私たちの感性の、その安寧のために座すべき土台もろとも、
この本にがっぷりともっていかれてほしい。
なぜこうも心に響くのか。
それはこの物語が信念の物語だからである。この物語の登場人物は、
みな信念を求め、導き、迷い、傷つき、貶し、愛する。
その様をみて、彼らの信念の濁流にのみこまれてほしい。
 
2、姉の存在を感じてほしい。
 
主人公の姉として、作中で強烈な存在感を放つ彼女。
主人公はいつも彼女に振り回されることになる。
私もページを進めるうちにいつしか主人公の家、圷家の一員となってしまうが、
主人公が終始姉にその生活の浮き沈みを握られたように、
彼女にこの読書の主導権を握られてしまうだろう。
それはある意味、呪いに近いかもしれない。
 
読書は限りなく自由な行為である。
自らの意思でページを開き、文字を認識し、想像し、感じ、考える。
いつ読書を初めてもよいし、いつ終わらせてもよい。
何を感じてもよいし、何も感じなくても良い。それは全て読者が持つ権利である。
 
しかし、この姉には通用しないのだ。
 
読者を夢中にさせるというよりかは、ブラックホールのような、
何か引力めいたものをこの姉は発生はさせている。

はじめのうち、読者は圷家の悲喜交々を端からみているだけの傍観者に過ぎない。
しかし気がついてみると、その引力、特に姉をその中心に据えた引力が、
読者をその傍観者であることの権利からベリベリと引き剥がし、
彼らと同じ世界に吸い込んでしまう。

そして、彼らがおりなす感情と信念の竜巻に
否応なしにも向き合うことを強いられるのだ。

そんな感覚を皆さんにも味わってほしいのだ。
姉に振り回されてほしい。
そして最後には彼女に導かれてほしい。
 
以上、読者予備軍を脅すような紹介になってしまったが、
本当にそれほどパワーのある小説である。
 
ぜひ皆さんもこの本を手に取って、
己の信念とはなにかについて考えるきっかけを持ってほしい。